刺しの融点が、ちがうんです。

牛は、近年、巨大化しています。
これは日本人の体型が戦前よりも大きくなった、欧米化している、などというのとはちょっと事情が違います。

巨大化の原因は、現在の牛の何世代か前に、雑種系統の牛を掛け合わせたためです。
その結果、巨大牛(約550~700㎏)が誕生しました。

ではなぜ巨大牛を作るかといえば、キロあたりの値段が巨大牛と従来の牛(350㎏前後)と同じであれば「大きく作った牛のほうが生産者の利益が多く出る」というとてもシンプルな理由です。

とはいえ、牛が巨大化すると筋の太さも刺し(脂)の幅も大きくなります。
大型化した牛の霜自体の太さも太くなるので、刺しがたくさんあるように見えるのも当然と言えば当然です。

しかしそういった牛が一般的になってしまうと、お客さまとしては、従来のものと比べる機会もないので「これがフツーの牛肉」と思われてしまっても仕方ないですね。

また昔の牛の餌は、現在のようなハイカロリーでなかったために、体も小さく、飼育に日数(約30~35ヶ月)を要しました。

最近の巨大牛は、およそ25ヶ月(月齢)でと畜(出荷)されます。
(飼育時間の短い牛の肉は、水っぽく、味が薄く、変色が早くなります)

加藤牛肉店は、山形牛の従来の大きさの雌(未経産=処女牛)のみを扱っています。
これじゃなきゃダメなんです。
と畜の早い巨大牛には手を付けません。

やはり味が違います。
とくに霜降り部分です。
雌の処女牛は、一般的に流通している虚勢された牛に比べ、肉のキメが細かく、同じ霜降り肉の味わいがさらりとしています。

『霜降りの後味がさらりとしている』
不思議に思われる方もいらっしゃるでしょうが、これが処女牛の最大の特徴です。

では『霜降りの後味がさらりとしている』理由ですが、処女牛の体温は虚勢牛よりも高いために、脂の融点(溶ける温度)が低くなります。

そのために脂の口溶けが早い。
すっと溶けてしまうので、口内に脂っぽさが残らず、さっぱりとした処女牛特有の後味が生まれる。
というわけです。

赤身の肉はビタミンAが豊富です。
昔は、お腹のゆるい人には牛肉を食べさせるという習慣もありました。
(ちなみに、肉色は飲ませる水に鉄分が多いと赤が濃くなり、石灰分が多くなると色が薄くなります)

牛肉とは、本来消化吸収の良い食べ物です。
赤身は甘く、脂は焼いたときの香りがよい。

それが加藤牛肉店の理想とする牛肉です。